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From Yuko to Keiko 8/12/1999 「Oxfordから(6)」 (Oxford)
From Keiko to Yuko 8/12/1999 「Re:Oxfordから(6)」 (Tokyo)

From Yuko to Keiko 8/10/1999 「Oxfordから(6)」 (Oxford)

Dear Keiko

>昨日(?)は、もしかするとあなたにずいぶん無駄な時間を使わせてしまったので
>はないかと案じています。と言うのも、試作の「往復書簡」のアドレスを少しい
>つもと違う書き方にしたら、ファイルが壊れて表示されることに今朝気付いたか
>らです。多分いらいらして、「もう二度とパソコンなんか使わないからね」とマ
>シンをけっ飛ばすか、クッションで布団蒸しにでもして寝ちゃったのではないか
>と心配です。(マシンのことがよ。)

だいじょうぶよ。私はあなたほどこのマシンってヤツと親しくないから まだ遠慮ってものがあるわよ。さほど親しくない人に突然蹴りを入れたりは しない。もし今までに私から強烈な蹴りだとかアッパーなんか入れられっちゃった 人がいたら、ごめん、それはあなたへの親しさから出た愛の表現。とかなんとか こう言う事がHPに載れば個人的に説明しなくても該当者が読めばそれで 一度に・・・ あなたのお陰でどんどんはまりそう。 とにかく昨日は(/)一本のせいか何だかで開けないなんて知る由も無く 最近お付き合いを始めた友人と言うかむしろ恋人に対してのように 謙虚に「たぶん私のアプローチの仕方が乱暴すぎたのかも。明日もう一度 別の方法で話しかけてみよう。」と傷心の気持ちを抱いたまま寝ましたよ。 ムチャクチャな夢を見た。それについてはまた機会あれば・・・

今こちらは午後3時過ぎ。これから出かけなければならないの。 今、娘がクラリネットの練習をしているところだけど一段落したら 街に出かける約束をしたので。夜は息子も加わってOxford Play Houseの ミュージカルを見に行く。彼もあちこちで情報が拾える程度の英語力は 身についてきてるらしい。ただ詳細については能力不足で、私もこの ミュージカルが一体どんなものか・・・見てのお楽しみということ。

日ごろ、子供達とじっくり時間をかけていっしょに何かをする事が少なく なってきたけど、夏のOxfordは母と子らの一種のReunionでもある。 私には仕事がないし、彼らには学校も友達もない。特に娘にはまだ息子の ような語学学校での社交生活もないからね。 じっくりお付き合いしましょう。彼らが望むなら、ですが。でもパソコンに 時間を奪われている感もある。

さっき、日蝕を観察した。暇なイギリス人には格好の夏のレジャーらしく Lands Endまで出かけて見ようというお人も数すくなくない。もっとも今は 彼らにとっても夏休み中なのだからね。隣のMicとMichelも昨日、荷物を 積み込んでスペインの方へ出かけた。 いい意味でこちらの人は楽しみを見つけるのに積極的だし、楽しみのため には時間を惜しまないから、我々のように時に追いかけられる人間にとっては 暇に見えるんだろうね。 Millenniumについてもこちらじゃあちこちでイベントが目につく。日本で 目につかなかったのは私が忙しすぎたからか?Last Minuitになれば 大騒ぎをするのだろうか。イベントには商業的なものもあって、それに 批判的な人も少なくない。

娘のクラリネットがまだ鳴り止まないのでもう少し書けるね。 昨日は息子が学校が終わってからCotswoldsの方へ出かけた。 学校で彼が知り合ったBiancaという中国の学生も誘って。 Bourton-on-the-waterもBiburyもすごい人出。夏はどこでも同じか。 数年前に早々一足お先の夏休みを取って6月のイギリスを一人でブラブラして 回ったのがなつかしい。久しぶりのイギリスが、久しぶりの一人が新鮮で 眩しかった。6月はまだ観光客も少なくて、人々にも時間がたっぷりあり、 そこかしこで見知らぬ人達と暖かい交流をした。立ち寄った店に レインハットを置き忘れ、連絡すると数日後、とてつもなく大きな小包みが 届き、中には何重ものクッション材に包まれたなつかしい私のレインハットが。 丁寧に添えられた手紙には店主の「遠い東洋の国からお越しいただいた お客様の大事なお帽子がまた持ち主の元で幸福な日々を過ごせますように。」 のユーモアあふれる言葉が。これだこれ!レトリックだろうが何だろうが この国を私が愛するわけのひとつはこれよ。おしゃれとユーモアを楽しむ 余裕がある。貴族も乞食も。食えなくたってsense of humour です。 マイフェアレデイのおとつぁんの精神でございます。 いつか書いたかもしれないけど、こちらで新聞(The Sun とかOxford Mailといった 三文紙だよ、もちろん)の文通相手、恋人求むの欄にほぼ例外無くあらわれる GSOHという文字はgood sense of humourだとわかった時に私は唸ったね。 日本じゃさしずめ「おもしろい人」とか「性格の明るい人」といったところか。 ここで英語がしゃべれてもGSOHのない英語であれば何てBoringなのってこ と だし、言語を含めて文化というものは一筋縄ではいかない。

話しが雲のように流れて行くね。Cotswoldsのことを話そうとしてたのに。 そうそう、昨日気がついたのはとにかく人出の大部分がご老人の群れ、または 老カップルだったということ。特にBourton-on-the-waterでは比較的若い人は 数えるほど。 ここが特にご老人達の 憩いの場と化してしまったのかとも考えたけど、他の場所もその傾向がある。 ただCotswoldsという地域は遠く外国からの観光客達にはロンドンや オックスフォードや(?)なんかより馴染みは薄いだろうし、ロンドンから足を 伸ばすにしてはちょっと便が悪い。必然的にイギリス国内からか、イギリスに 割に長期滞在しているようなひとたちが来るケースが多いだろうからね。 イギリスの若い人達や家族連れは夏は暖かさというか暑さを求めて南へ、 ヨーロッパの方へ出かける方が人気かもしれないし。結果的に遠出が難しい 老人達の国内旅行の候補地になるってわけかしら。

Cotswoldssの老人達を観察しているとまた日本の老人達と比べてしまいまし た。 元気です!騒々しいし、車椅子も杖も何のその。歩くのが自分でもやっとという 方が友人の車椅子を押して(すがって)買い物や散歩を楽しんでいる。それが そこでもここでもという人数の多さだから目を見張ってしまうわよ。日本の老人達は 今ごろいかに?年を召したご夫婦がいたわりながら歩く姿は微笑ましくもあり 痛いたしくもある。

今日はお昼ご飯にイギリスでは食べてはいけないものを食べてしまった。 おそうめん。私はどこにいてもそこの風土に合ったもので結構いけるけど 暴飲暴食のたたったうちのお坊ちゃんには時々こういうシンプルなもので胃袋を いたわっていただかないとね。 でも日本のような水に恵まれている国の食べ物はシンプルとはいえ水を大量に 使うからね。冷たい水で丁寧にさらし洗ったおそうめんのひきしまった歯ざわり。 でも昔からこの国は水が豊富とはいえない。細いヌードルをこれでもかとザーザー 水で洗っているのを目撃されたらひんしゅくを買うのにちがいない。トニーの 口笛を気にしつつのお昼ご飯でした。それでもこの一週間は雨がすごくて、これは 充分おそうめんのexcuseになったかな。 政府の節水の呼びかけの文句に夫婦間では同じバスタブのお湯を使おうというのが 出た時に、"We've been sharing it already!"というのがあって笑えた。 何もかも講義しなくてもというあなたへでなくて、これを読まれるかもしれない読者 の 方々への老婆心から申し上げますと、taking a bathが個人のレジャーにも等しい この国ではその楽しみを奪われるのはごめんだと皆思ってるけど、もっと楽しむため に愛し合うものたちの間では当然、既にshareして楽しみを倍加させてたってこと。 政府のオタンコナス。どこでも愛し合うものたちは同じ。 こちらのbathのやり方で誰かの入った後のお湯に入るのはごめんだけどさ、(これが 政府の意味してたこと)同時になら、人によっちゃ、ま、いいかってこと?

かく言う私もそう頻繁にではないけれどイギリス流のbathを楽しむ。 まず、必要なのがろうそくか、アロマセラピー用のオイルランプ。この季節には sea breezeが好み。イギリスのbathroomにはコンセントは禁じられているから 隣の部屋からの延長コードとCDプレイヤー。 そして泡の入浴材を蛇口からのお湯にたらしながらタブを満たす。もちろん 入浴剤もオイルランプと同じ香が望ましい。電気を消して、タブに長々と寝そべる。 背中をこすろうとか髪を洗おうとかは一切考えなくてよろしい。イギリスの 入浴剤はマジックで寝そべっているだけで全て解決してくれる・・・ おっと忘れてた、実はもうひとつ、防水加工された本。しかし私はそこまでbookworm じゃないから代わりに好みのアルコール飲料のグラスというより大きなジャグを 持とう。空想または瞑想または妄想にふけりつつ時間を過ごすうちにお湯がぬるくな り あまりのリラックス度に顎までそして口までつかりそうになって寒さに身震いして 目が覚めるなんてことも・・・危ないあぶない。そこでまた蛇口からお湯を足して、 (少しずつ 底から抜くのも忘れないで)も一度暖まり、夢から覚めたらやおら立ち上がって泡の 体を そのままふかふかのバスタオルで包み拭う。 Keiko,覚えていると思うけど、こちらのお皿の洗い方。未だに同じです。 だからお皿ならずとも体を泡のまま拭いちゃうなんてたいしたことじゃない。 入浴剤にはnon soapの表示もあるではないか。

キャッー!4時半になっちゃった。こんな事なら少しでも編集のお手伝いしたほうが 良かったのにまたあなたの仕事を増やしてしまった。 それではまた朝にでも。

From Yuko


From Keiko to Yuko 8/12/1999 「Re:Oxfordから(6)」 (Tokyo)

Dear Yuko

GSOHに溢れたメール、どうもありがとう。今回のお便りを読んで、一度もクスリと笑えなかった人は、お気の毒ですがGSOHの世界からはご招待状が届かなかったということで。トニーというのは、あなたがむかし居候、じゃなかった留学生時代にホームステイをしていたときの家主さんで、今では最高のご近所付き合いをしているイギリスのお父さんだわね。奥さんがシーラで、娘さんがリンダ。リンダはその娘を一人で育てながらあなたの家の管理をしている、と。「隣のMicとMichel」っていうのはあなたの家の間借り人達でしたっけ。復習しておかないと、こんがらがりそう。

皆既日蝕のことは日本の新聞でも盛んに報じられています。サングラスかけて天を仰ぐ人々の写真がでかでかと。日本からわざわざ出かける「日蝕ツアー」というのも組まれているみたいよ。人それぞれの趣味ですからどうぞご随にとだけ申し上げておきましょう。今年の関東地方は猛烈な暑さです。暑さを求めるというイギリスのお若い方々に、よろしければ日本方面へどうぞとお伝え下さい。モンスーン地帯の熱暑地獄体験ツアーを組んで、小住宅ひしめくアジアの都会へお出まし願ったら、「暑い」という言葉の実態がよーくお分かりいただけるでしょう。たっぷり水をくぐらせたお素麺でおもてなしいたしますわよ。

あんまり暑いので、夕べはキムチ鍋を作って、ぐつぐつ煮えたところをヒーフー言いながら食べました。こうなったらもうヤケです。外より中を暑くすりゃいくらか温度差が出て涼しくなろうかと。出た出た、汗が。始めは「この季節に鍋?」とか言って不興げだった面々も、ひとたびその辛さの味覚に目覚めるやものも言わず汁まで全部飲んでいた。おーし、これがアジアのパワーよ、唐辛子にニンニク、豚肉、野菜、後はご飯だ。飯がすんだらあっつーい風呂に入って畳にゴロリ。アロマの代わりに蚊取り線香ってか?

日本のご老人達も元気な人は元気です。女性の平均寿命84才、男性は77才ですって。どうしてこれだけの差が出るかというと、不況とリストラのあおりで中高年男性の自殺が増えているからなんだそうです。そこまで仕事上の不遇に押しつぶされて自死を選ぶより、ちょっとした楽しみを見つけて世の中を達観できるようになればいいのにね。そこへいくと女性はしぶといのかな。Merry widowは全世界共通?義母も母も元気、元気。有り難いことです。私たちが84才になったとき、どんなことしゃべっているか想像できる?多分あっちが痛いこっちがおかしい、なんてことはさておき、過ぎし日々の情熱やこれからの夢なんてことを性懲りもなく語り続け、まわりの人々の怪訝な視線もどこ吹く風、ってなもんじゃないだろうか。いい気なものね、女というものは。それで地球は持っている、ということにしておきましょうか。

西洋のお風呂は棺桶型(だから寝そべって溺れかけるんだわ)、日本のお風呂は座って膝を抱えるとちょうどいい(毎日日本人は母の胎内に戻って羊水に浮かぶ胎児の姿勢をとるとか何とか、読んだことがあるわ)。そうそう、今年の五月に東京グローブ座に来たイギリスのYoung Vic Theatreの「ハムレット」で、いよいよ復讐に取りかかる直前のハムレットがホレーショを前に、本物のバスタブで湯浴みをしているのよ。墓場から持ってきた髑髏を洗いながらね。勿論素っ裸だったもんだから、大挙して詰めかけた我が女子学生達は、目が点になっちまって、後から「何故あそこで風呂場のシーンが出てこなくちゃならないのか」で議論百出。まだまだ我が国ではステージ上でヌードにお目にかかれる機会は少ないの、ご存知ですね。真面目な先生方は、「斎戒沐浴して決戦に挑む心境を如術に」と言ったかどうか、私は、ガートルードとの関係でハムレットの母胎回帰願望をシンボライズしてんじゃないの、とか何とかほらを吹いておいたわ。去年のグローブ座の「ロミオとジュリエット」で見た機械仕掛けみたいにてきぱきしたベッドシーンよりは余程インパクトがありました。

演劇では生身の肉体を人の目に晒して、全身で表現を。声楽ではもっと抽象的に、やはり全存在を人目に晒すのだわね。とても勇気のいることだと思います。そこいくと物書きは陰に隠れてペンネームに正体を偽り、あること無いこと書くんだとしたら、狡いわね。あなたとメールをやりとりしているうちに、結局は自分を鏡に映すことになってしまったわ。シェイクスピアも世界に向かって鏡をかざすんだったわね。時々私はパソコンのモニターも自分を映している鏡で、私は日々その鏡をじっと覗き込んでいる自分を見ているような気になることがあります。余り自己言及的な文章にならないうちに、今日はこの辺で。

From Keiko


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