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From Yuko to Keiko 8/17/1999 「Oxfordから(8)」 (Oxford)
From Keiko to Yuko 8/18/1999 「Re:Oxfordから(8)」 (Tokyo)

From Yuko to Keiko 8/17/1999 「Oxfordから(8)」 (Oxford)

Dear Keiko

お出かけ前の忙しい時間にも 早々メールありがとう。本当に生活の一部になって いるのですね。 こちらにも届きました。反応が、2回に分けて。 他のメールからの転送と言うか貼付というか はたまたコピーというのか???笑っちゃうね。 その方法がわからないので、あなたのように送ることが できないのです。 そのうち教えて下さい。 二人の共同作品ですから反応についても やりとりするものがこれからも出てくるだろうし。

旅先で「静寂の音」を聴いていたあなたに突然の着信音は どうかと思い、ゲストブックへの書き込みは止めました。 MUさんからメッセージが入っていましたね。 読者それぞれの私達ふたりに対する関わり方で 関心がある部分が違うのは当然で、けっこう素直な 反応が返って来ています。

ネット接続コンセントがあるお宿に泊まっていたのね。すぐお返事は結構! こちらは三行日記を楽しみに読んでいますから。 ところで温泉、いいねえ。私も帰国したら行きたいな。 一年に1回の長期ホリデイに食われて国内でのお休み とはあまり縁のない生活だったので。 温泉に浸かってbathの話しの続きでもしましょうか。

先日のメールのハムレットと湯浴みのくだり、おもしろかった。 文学にせよお芝居にせよ異文化のものを観賞したり勉強 したりする時の興奮、そして疑問とまどい。つきぬ興味。 知識でも経験でもなく想像力だけで解決しなければならないことも あり・・・(これは私達二人の往復書簡を覗く読者たちも感じることかも。 一人の人間もまた一つの文化だからね。)

イギリス人にとってはbathは日本人が家で入るお風呂というより 温泉を楽しむ感覚の方に近いものがあると思う。 必要性よりもっと純粋に楽しみの方に近い。 今日の予定を聞かれて「今日はお風呂に入る事にしているの」 なんて応える日本人がいたらよほどのエイリアンだけど、イギリス人 ならそう不思議でもない。お誘いをお断りする理由に、「ごめん、 今日はお風呂に入るから。今バスタブにお湯を入れてる最中なの。」 なんてのもあり。(でも恋人を急なデートに誘った男が同じ理由で 断られたら、それは次回のデートもないかもね。もちろんイギリス人も 必要性からお風呂に入る事もある!)

体の具合の悪い時、気持ちが滅入っている時にも "Why don't you take a nice hot bath? It'll make you feel better." (「熱いお風呂にでも入ったら?元気出るわよ。」) お休みの日の昼下がり "I'd love to have a hot relaxing bath more than anything else." (「あーあ、何より熱いお湯につかってのんびりしたいわ。」) とウットリした目つきで言われれば、邪魔する勇気はない。 かくしてこの国の入浴剤から始まってbath goodsが豊富な理由が わかる。防水加工された本が(幼児用のものばかりでなく) 出ているのもわかる。

独断と偏見に満ちた話しでした。 イギリス人の名誉のために言いますが、毎日お風呂に 入らないからといってものすごく不潔なわけでもありません。 この乾燥した気候では日本と違って汚れにくいのです。 衛生感覚も風土と密接な関係があるから、日本の衛生観念は 必ずしもここでは通じない。 ねえ、Keiko、あの時ハムレットが湯浴みをしていた訳は 心境は何だったんだろうね。シェイクスピアのサービス精神 だったりして(笑)。長い間アカデミックな世界に縁のない生活を してきたものだからね。あなたがギョッとするような事を 言うんだろうなあ、私は。

でもあなたと話しているうちに懐かしくなってKeatsや Blakeの 詩集を引っ張り出してみた。家では数年前にロンドンで買った 詩の朗読テープを聞いて楽しむ事はあるんだけど、あまり 読まなくなった。読むより聞く方が楽しい時期なのかもね。 でも一番は"those unheard melodies are sweeter"ということ。 お喋りは饒舌であっても聞く音に関しては饒舌なのは好きじゃ ない。「静寂の音」を聴くことはKeatsから習ったのかもしれないね。 歌を歌う時も同じ。音のない時に聴く音が好き。だからHさんの ピアノが好き。ちょっと聞くと華麗に聞こえても間を埋め尽くす ような感覚のピアノは嫌い。

さて、雨上がりの街に出かけてきます。George Street にあった Dillons覚えてる?別の店になってた。やはり本屋なのだけど どんなもんか見に行くことにする。

From Yuko


From Keiko to Yuko 8/18/1999 「Re:Oxfordから(8)」 (Tokyo)

Dear Yuko

> 他のメールからの転送と言うか貼付というか
> そのうち教えて下さい。

簡単です。該当メールを開いた状態で、「メッセージ」のプルダウンメニューの 中から、「転送」って言うのを選びます。すると自動的に件名の所に「FW:」と いうのが付いて、引用符付きのメッセージが表示されるから、必要部分だけを残 し、自分のコメントなんか書き加えて、宛先に例えば私のアドレスをいつもの通 りに入れる。それでOK。試してみて下さい。

短い旅でしたけれど、やっぱり時々出かけるのはいいものです。乗鞍高原を散策。久しぶりにささやかな山登りもして、ブナの森を出たところで素晴らしい滝に出会った。豊かな水が滝壺に落ちて行くところを眺めていると、時の経過を忘れます。連峰の頂上近くに雪渓も望めましたし、夕刻の厚い積乱雲の切れ目から幾筋もの光が帯となって降り注いでいるところは、人の言葉を受け付けない。草原に寝ころんで、わたる風の音をかすかに聞きながら、しばし空を見上げていました。汗をたくさんかいて、疲れた体を温泉に延ばすのは、この世の極楽だわ。

ところで「ハムレット」の入浴シーンは、今回の演出家の創作。テキストではハムレットの書斎ということになっていて、ケネス・ブラナー主演・監督の映画では、着衣のハムレットがしかつめらしくホレーショに向かって心境を語るだけ。そのつもりで見ていたから、思いがけない演出にすべての眠気も吹っ飛んだんです。確かにこれは演出家の「サービス精神」の現れかも。(誰に対する?)

狂気のオフィーリアの扱いは演出家や監督達の腕の見せ所でしょうけれど、あそこでハムレットを裸にしたのは当然特別の意図あってのことだと思います。どうも全体として、ハムレット・オフィーリアの関係より、ハムレット・ホレーショの関係の方が迫り来るものがあるし、オフィーリアの死に際しての悲嘆ぶりより、母ガートルードの遺体をかき抱くところの方が生々しかった。「母の息子」としてのハムレット、「同性の親友に全幅の信頼を寄せる」ハムレットの方が、恋人ハムレットよりリアル。これどういうことでしょう。男友達の前で普通全裸をさらすかねえ。オフィーリアとのラブシーン、ゼロですよ。そういう目で見ると、ハムレットは未成熟な男として提示されていたのかな。絶対マッチョじゃない。彼はプリンス・チャーミングではない。弱き女を救い出すタイプの男でもなくて、庇護を必要とする傷つきやすい人物。裸ってことは無防備だということでもある。そんなところに現代娘達も心を揺さぶられたんだと思います。

少し休んでから、「往復書簡」の一応の終結部を作ろうと思っています。でも、 なんだかんだで、「これからどうなるのか楽しみ」みたいな反応もあり、引っ込 み付かなくなったかな、なんて。少しスタイルを考えましょう。

いつも日記読んでいてくれるみたいでありがとう。そろそろ帰国準備かしら。 いったんうち切りでもいいのよ。そして横浜に帰ったら、今までほどの頻度では なく、「これは」のピックアップでもいいと思う。どうしていくか考えよ。

少なくとも、あなたにメールの威力が分かり、メールを書く習慣が身に付いたの は、この夏の一つの成果かな?パワーアップして秋から、本業にいそしんでね。 今日はこの辺で。

From Keiko


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