3. 雨月の歌
ことば豊かな歌を聴いていると、いつの間にか自分でも歌いたくなってくることがあります。残念ながら作曲する才覚を私は持たないので、無伴奏の平板なことばの流れを幾つかに区切って書き留めてみようと思います。最も短い定型詩である俳句は本来、五七五調の詞に季語を含めて瞬間を活写し自然と人の関わりを表現するものでなくてはならないのでしょうが、私の書くものは俳句と川柳の境界にぶら下がっているだけの語呂合わせになりがちであることを自覚しています。中島みゆきのアルバムに「歌でしか言えない」という作品があります。私はそのスピリットを真似してみます。五七五でしか表現できないものがないかどうか、試してみようかと。長々と書くより余程雄弁なことばを見つけたいと思うからでもあります。もっともこれは叙情も叙景も洞察も、書き手の力無さがもろに出てしまう怖ろしいフォームであることに慄然としますけれども。
タチアオイ赤桃紅の競いおり水無月の緑は深く胸浸す
半袖の腕(かひな)若くて目を反らし
弱音吐き雨のせいとは白き嘘
沈黙を破らせむとて梅雨便り
ざんざ降り濡れそぼるのは心かな
五月晴れなくて季節の逝きにけり
鈍色の雲背景に談笑す
雨の歌口ずさみおり泣く代わり
斬りつける言葉をかわす豪雨の日
若鮎の群がる淵に身をひそめ
人の恋聞く寛容や小糠雨
六月の宵に連れ立つ二人有り
晴れ間追いテニスコートに泳ぎ出し
何がため働き来しか雨に濡れ
弦楽も声楽も佳し夜半の雨
差し出せるもの無し紫陽花歌にせむ
線路際ツユクサ茂り時を知る
雨を呼ぶ葉裏返して騒ぐ風
傘をさし米買いに行く街の夜
週末と週明け繋ぐ蒼き雨
たおやかにしずく浴びたる薔薇の花
雨足が屋根叩くかにキーボード
梅雨寒にぬくもり欲しく腕を組み
湿り気の満ち満ちておる国土かな