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徒歩記 2 「本郷の四季」 --Hongo Wonderland-- |
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3. 森 庭園ばかりか、小石川には森もある。文京シビックセンター前から白山通りをまっすぐ北に進み、 白山交差点にかかる少し手前を西に折れると、あたりの路地には印刷工場がひしめいている。印 刷機械が唸りを上げ、紙の運搬車が動き回る。かつて共同印刷の労働争議を徳永直が『太陽のな い街』(1929)に書いた舞台がここ、小石川の工場街である。もちろん今では刷新された小綺麗な工場が 多いが一軒一軒の間口は狭く、中には相当年季の入った建物もある。昨年、老朽化した家内工場 の一つから火が出て、老夫婦と幼い孫が亡くなるという痛ましい火災があった。天井を這う布巻 き電線が発火原因ということだった。出版と共に印刷業は現在も文京区の重要な地場産業の一つ である。広大な植物園の縁を取り巻くのが零細企業群であることは、この街の特筆すべき構造か も知れない。 「小石川植物園」というのは俗称で、正式には「東京大学大学院理学系研究科付属植物園」という 長い名前がある。徳川幕府が貞享元年(1684)に開いた「小石川薬園」に端を発し、貧困者のため享 保7年(1722)から明治維新まで続いた施療所「小石川養生所」もこの中にあった。「小石川植物園後 援会」発行の案内書きは上記の他、園内にニュートンの林檎(の子孫)、メンデルの葡萄(同)、 精子発見の銀杏、ハンカチの木、メタセコイアの林、ボダイジュ並木など、貴重な樹木の在処を示し ている。池の端には明治時代の重要な建築物「旧東京医学校本館」が博物館として保存されている。 |
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