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徒歩記 2 

本郷の四季」

--Hongo Wonderland--

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この界隈にはほど遠からぬ三カ所の「聖地」がある。学問の神様を祀る上記湯島天神、 江戸幕府の「昌平坂学問所」として名高い湯島聖堂、そして江戸総鎮守「神田明神」である。受験合格祈願の学生たちはこの三カ所を回ると大願成就するのだとか。この前私が聖堂と明神様を回ったの は丁度節分の日だった。御茶ノ水駅で中央線を降りて聖橋を渡り、東京医科歯科大学はす向かいの石段から聖堂境内に下りた。寒い日で「杏壇」(学問所・講堂)と額の掲げてある大成殿山門をのぞく と、リュックを背負った若者が一人ゆっくり石段を昇っていくところだった。中国風の本殿には他に 誰もいない。若者はしばらく頭を垂れていた。聖堂は深い緑に包まれている。楷の木が見事な枝を広げ、 孔子像の周りにも鬱蒼と木々が茂る。(ここにはシュロばかりが目立つという人もいるけれど。) 古跡「昌平坂」と書かれた石碑の埋まる角に立ち、聖堂をめぐる中国風石塀と小石川後楽園の築地塀の 違いを比べてみるのも面白い。聖堂を北に一筋超えれば神田明神に至る。黒が基調の聖堂神殿とは対照 的に、ここでは鮮やかな朱塗りの「随神門」や本殿が目を引く。本殿脇の特設舞台には紅白の幕が張り 巡らされ、豆まきの準備が整っていた。力石など眺めながら裏参道を通って急階段を蔵前通りに下り、 しばらく北西に歩けば本郷通りにぶつかる。そこから壱岐坂までは目と鼻の先だ。

この三ヶ所にもう一つ、根津神社を加えておこう。東洋女子短期大学英文科に専攻科があった頃、 千津子さんという学生がいた。物静かで滅多に自分から口を開かない彼女がある時、一緒につつじを 見に行きましょうと言う。「私のうちのすぐ近くなのでご案内したいのです」と。あ、千津子という 名前はこの神社から一字もらったのねと納得がいった。彼女はさっさと私の先に立って歩き、本郷通りの東大正門前を過ぎると弥生交差点を東に折れ、「ここがサトウハチローの家だったところ」などと 行く道々名所を指し示しながら私を根津神社まで連れて行った。つつじは満開だった。神社の西側斜面 には、ありとあらゆる種類のつつじがこんもりした丸みを帯びて咲き誇っている。見物客はぞろぞろと 連なってつつじの間を右往左往する。それは見事な花だったが、あの日私が最も興味をそそられたのは 境内に出ている猿回しだった。

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