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徒歩記 1 「本郷菊坂路地めぐり」
The Amazing Maze |
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坂道の行き先を確かめたあと、私は再び段々を下りて菊坂下の路地へ戻り、ここかあそこかと細い路地を覗くうちふと心惹かれる通路があった。自転車や植木にさえきられて奥までは見通せない。私有地に立ち入るのは気が引けたものの、何者かに導かれるように進んでいくと、ぽっかり空間が開けてそこはあの場所、樋口一葉旧居跡の井戸端だった。
四、五軒の家屋に囲まれ、井戸端は小さな広場のようになっていた。「猫の額ほどの」と添えた方がいいかもしれない。薄青の汲み上げ式ポンプが、濃い緑色をした円柱形の井戸の上に乗せてある。ハンドルを上下して水を汲み出すポンプのノズルの先には、こざっぱりした豆絞りの手ぬぐいが袋にして被せてあり、おまけに何かのおまじないか束ねた小枝がぶら下がっていた。井戸の木蓋の上に「防災協定井戸 飲むときは必ずわかして下さい 所有者並びに文京区役所」と大きな板が打ち付けてある。古いとはいえ現役の証拠だ。「ああここが」とやはり感慨は押さえられなかった。すぐ目についた「樋口一葉旧居跡」の説明プレートに近寄って文字を追う。
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