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徒歩記 1 「本郷菊坂路地めぐり」
The Amazing Maze |
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菊水湯に背を向け、下道から菊坂への階段を上ったところが丁度「伊勢屋質店」だった。初めはそれが一葉ゆかりのとも思わず、ただ古びて堂々とした土蔵に引き寄せられたのだった。久々に出た陽光と風を入れようと一階二階とも観音開きの土蔵の窓は開け放たれ、中にはぽつりと電灯がともっているのが見えた。既に質屋の商いを畳んだ後の母屋と土蔵は二階の高さの廊下でつながっており、二つながら明治の風情をそのままに残す。
一葉から春を隠し、一家の命をつなぎもした伊勢屋の土蔵の前で、実に不思議な心持ちがした。貧困、病苦、不遇を超えて、一人の女性が書いた文章は平成15年(2003)の今も鮮やかだ。
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