New Zealand紀行
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New Zealand紀行 「光を観に行く」 3 氷河と銀嶺 K. Kitada (2) 翌朝の氷河湖見物には、ホテルの集合場所に全部で6人揃った。客は私たち以外全員が欧米系のように見えた。またしてもNZ在住の若い日本人の山男がドライバーとして登場したが、このガイドは山道の途中までグループを先導したあと別のNZ人女性ガイドに我々を引き渡して去った。次のグループを迎えに行くようだった。女性は半袖姿で、震えながら歩く客の度肝を抜いた。荒野をしばらく歩くと湖水のボート停泊所に辿り着く。客は持ち物を大きな箱に預け、救命胴衣を身につけてゴム製のジェットボートへと導かれた。少人数なので、誰もがボートの水際に座れる。全員カメラを握り締めている。 「さあ出発!なんでも聞いて頂戴。なんでも写して行ってね」とガイド女性は威勢が良い。ボートはゆっくりと進んで、最初の氷塊の傍らで止まった。「この氷は氷河から崩れ落ちてきたもの。どうぞ舐めてご覧なさい。300年前の味がする?」とガイドに促され、私も氷を口に含んでみた。氷塊は角度によって水色にも白にも見えたが、摘んだ氷は透明だった。アイスバーグはよく言われる通り、水面に出ている部分は全体の約一割。水面下に巨大な塊があるということだろう。毎日少しずつ氷河から崩れ落ちては湖面を漂って消えていく。湖の水温は3℃。水中に生物はいない。ボートは向きを変えると速度を増してグイーンと唸りながら氷河の先端を目指した。前日に崖の上から見下ろしたものを今度は水面から見上げる格好だ。 ボートは氷河正面のかなり手前に停泊した。目には見えないけれど氷河は動いている。いつ何時急変があるか知れないので常に大事を取っているとガイドは言う。見上げる氷河の断面は言うなれば「氷の宮殿の入口」のようだった。青白く鈍色の縦縞を刻んでいる。このようなものは見たことがないとしか言いようのない光景に、ボートに乗り合わせた客一同、はしゃぐわけでなし、喜ぶわけでなし、全員ただ言葉を失っていた。かすかに遠雷のような音がした。「あれは氷河の割れる音」とガイド。 ボートが波止場に戻ってきた時も、皆黙々と上陸した。ガイドに別れを告げ駐車場までの道をたどる間もめいめい、今見てきたものを反芻しているようだった。そこに賑やかな中国人と思しき一団がやってきてすれ違った。あの人たちは湖上でどんな風に氷塊と接し氷河を眺めるのだろう。大いに盛り上がって写真を撮り合うのだろうか。おそらくあの女性ガイドは変わらず堂々と氷河について語り、誰も湖に落ちないよう厳しく目配りし続けるのだろう。実に逞しいNZ女性だった。 その後私と娘はホテル内のSir Edmund Hillary Alpine Centerでドキュメンタリー映画を見た。Mt. Everestの最初の登頂者として名高いHillary卿の生涯が紹介されている。NZの誇る人物について知る良い機会となった。自然も人も、NZは実に懐が深い。滞在中Mt. Cookは一度も姿を見せなかったが、私は背後に山の存在をひしひしと感じていた。 |
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