New Zealand紀行
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New Zealand紀行 「光を観に行く」 3 氷河と銀嶺 K. Kitada (1) Routeburn Trackを案内してくれたガイドの弁によれば、牧畜のために広がる牧草地帯はヨーロッパからの入植者たちが森林をなぎ倒して造成した生産緑地にほかならないから、NZの原生林の側から見れば究極の環境破壊だったとも言えるとのこと。(だからこそ、国立公園の森林は手厚く保護されて今日に至る。)羊、牛、鹿などが牧草を喰むのどかな光景は裏を返せば人為的な自然の大改変であったとは、私は迂闊にして想像もしていなかった。だからMt. Cook行きはNZの内奥を見に行く行程でもあった。 NZの最高峰Mt. Cook (マオリ語ではAoraki)は標高3754メートル。富士山のような独立峰とは異なり周囲を高い山々に囲まれている。山容がくっきりと現れるチャンスにはなかなか恵まれない。私たちがバスで麓のホテルに着いた日も雲に隠れていた。 この日の午後はガイドが4WDをTasman Valleyの展望台まで運転して、私たちに崖の上から氷河湖に流れ込む氷河の先端を見下ろす体験をさせてくれた。山道はデコボコで、前日に降った雨がそこいら中に大きな水たまりを作っている。車が盛大な水しぶきを上げながら進み平らな高台の隅に止まると、あとはろくに道もついていない斜面をよじ登って下を覗くだけである。崖下に開けたのは見たこともない光景で、口をついて出たのは“Wow! ”だか、“Oh! ”だか、何語か不明の叫びだった。氷河を覆うのは灰色の分厚い土砂。その先端は垂直に湖に切り立ち、青白い氷の断面を見せている。湖は白濁した水色。静かだ。目を凝らすと水面をアメンボウのように動いているものがある。ガイドは「あれが明日乗るボートです」と言った。 地球温暖化のせいで氷河は毎年数十メートルずつ短くなっているという。極地の氷山が溶けて海洋生物にも大きな影響を与えているという話はよく聞くが、目の前の氷河も同様の運命にあると知ると胸が騒ぐ。手つかずの大自然に人間の手が為しうることは何もない。氷河は悠然と流れて消えてゆくものらしい。空と、山と、湖と、氷河の鮮やかなコントラスト。その圧倒的な光景に私はひれ伏したいような気持ちだった。 4WDのガイドもユニークな人物だった。チベット出身のモンゴル系ネパール人。この回の客は私たち二人しかいなかったので日本語で案内をしてくれた。彼の丁寧で分かりやすい日本語は1年半教室で学んだだけであとは実践的にガイドをしながら身につけた。日本には行ったこともない。故郷でシェルパをしていたこともある。そう聞くと、外国語の習得に重要なのは生業に不可欠であるという「必要性」だけなのではないのかと思えてならない。自ら外国へ行かなくても、訪れた人から言語を学びとろうという姿勢は常に有効なのではなかろうか。そのような機会をものにして活用できるかどうかがカギだ。熱意以上の貪欲さと言っても良いかもしれない。 |
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