New Zealand紀行
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New Zealand紀行 「光を観に行く」 2 降っても照っても K. Kitada (1) 誰にとっても旅行は、特に海外旅行は、冒険だろう。期待と不安がないまぜになった心を抱いて旅人は飛び立っていく。退職旅行を決め込んだ私も、若い頃ほどではないにしても張り詰めた気持ちでNew Zealand(以下NZと省略)を目指した。 Queenstownに着いた日は雨だった。Lake Wakatipuは灰色に垂れ込めた雲の下、ゴンドラに乗ってスカイラインまで登ってもほとんど視界は開けなかった。秋口に雨が降るのは日本でも同じことと思えば、むしろ濡れそぼる木々の風情は馴染み深いものに感じられる。Queenstownには4泊を予定していた。ここを基地にMilford Soundへ出かけ、Routeburn Trackでトレッキングをしようという計画である。飛行場から旅行会社の送迎車で途中まで一緒だった母子連れは、翌日からMilford Trackを二泊三日で縦走するツアーに参加すると言っていた。その小学6年生の男の子に「海外旅行は初めて?」と聞いたら「いえ、5, 6回目かな。ヨーロッパにも行ったしペルーのマチュ・ピチュ遺跡にも行ったことがあります」とサラリと答えた。母親の方は「いつまで付いて来てくれるでしょう。これが最後かな」とつぶやいていた。そのさりげなさにむしろ私は軽いショックを覚えた。いつの間にか海外旅行なんて肩肘張ってするものではなくなったらしい、と。 翌朝ホテルの前で私と娘が乗り込んだ時、Milford Sound行き大型観光バスはほぼ満席に近かった。寝ぼけ眼で前列に座っていた乗客に「おはようございます」といっても反応がない。しばらく経ってから同乗者たちのほとんどが中国人観光客であることに気づいた。運転手は英語で道々ガイドのアナウンスをする。バスの添乗員は一人が日本語、もう一人が中国語のガイドだった。乗客は配られたイヤホンでどちらでも選べる。現地ツアーとはこういうことだったのかとようやく理解できた。幾度かの休息を含めて片道4時間あまり。Fiordland National Parkへ向かう道中は流石に寒い。休憩地点の土産物屋で私たちはマフラーに手袋、ひざ掛けなどを調達した。 北欧によく見られるフィヨルドは切り立った崖の間に深く切り込んで続く細長い海峡である。Milford Soundのクルーズ船は片道一時間あまりかけてTasman Seaへと開けた入江の出口まで山間を縫って航行する。前日の雨のせいで山の岩肌からいく筋もの滝が海面に流れ落ちていく。あたりは無彩色に近い墨絵のようだ。快晴ならさらなる壮観であろうが雨が滝を出現させるというから、むしろ天候に恵まれていたと言うべきかも知れない。目の前に繰り広げられる光景に乗客は誰もが驚嘆している。大勢の中国人観光客の興奮ぶりは凄まじく寒さも何のその。デッキで写真を撮り合い賑やかな声を上げている。突然堂々たる体格の中国人女性に私は話しかけられた。「見てよ、素晴らしいじゃないこの景色は!」と言っているようである。どうやら私を同胞と間違えたらしい。“Sorry, I can’t…”と言いよどむ私に事情を察した彼女は、「あらら、じゃ写真撮ってあげる、カメラ貸して」と言った(ようだった)。観光客同士の共通語は、絶景への感嘆詞と笑顔で事足りる。 |
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