SHORT ESSAYS
An Essay on Klara and the Sun |
カズオ・イシグロの
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これは、2025年2月14日に東洋学園大学「ことばを考える会」より出版された、シリーズ『ことばのスペクトル システムと多様性』(鼎書房)所収の一編をウェブ版として公開するものです。
カズオ・イシグロの「クララとお日さま」が問いかけるもの 北田敬子
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3. クララの登場 おそらくアメリカの中西部あたり、茫漠と広がる草原の中にポツンと家が建っている。歩いて行ける距離にもう一軒。二つの家は砂利道でつながっている。クララが住むことになった家の女主人クリシー・アーサーは毎朝車を運転してここから仕事に出かける。片言の英語を話す家政婦メラニアを雇っている。娘のジョジーは在宅でオブロン端末なるディバイスを通じて遠隔個人指導を受けている。ゴミ屋敷に近いもう一軒の家には、奇態な言動を続けるヘレンとそれを見守る息子リックが蟄居している。 ジョジー(推定14歳半)とリック(推定15歳)は幼馴染で、将来は一緒になるという計画を立てている。子どもたち二人の大きな違いはジョジーが「向上処置」と呼ばれる遺伝子編集を受けた選別された子供であるのに対し、リックの方は処置を受けていない階級の子供だという点である。ジョジーはこの処理を受けたために、常に体調不良を託ち一時は生命の危機にまでさらされる。一方処置を受けていないリックは身体壮健で、鳥のドローン編隊を飛ばすプログラムの製作に熱中している。 こうした環境の下にクララが導入される。クララは街の店舗で他のAF達と共に展示され売りに出されていた。子供のためのAF販売が専門のこの店には「店長さん」がいて、クララやローズ、レックスなどと名付けられた商品の販売を担っている。ちょうど新型B3モデルが導入され始めた時期で、客の関心はB3に行きがちなところ、店長はB2モデルの良さをアピールし、B2のAF達にも自信と誇りを持たせるよう努めている。(この段階でAFがヒトと視覚・聴覚・言語を介しての意思疎通が可能であること、AF同士の交流も起こることが明示されている。) 店長は個別のAFの特性について熟知している。彼女はクララの「観察と意欲」を特別な性質として挙げ、「周囲に観るものを吸収し、取り込んでいく能力は、とびぬけています。結果として…どのAFより精緻な理解力をもつまでになりました。」(p65)とジョジーの母親(クリシー)に説明する。それは「情報収集能力の高さ」とも言い換えることができるだろう。また同時に、取り込んだ情報をよく理解することで顧客の要求に応えていく「応用能力の高さ」があることをも示唆している。母親はクララに今見たばかりのジョジーの外見や声音のピッチを言わせ、更には歩き方を模倣することを要求する。クララの再現能力の優秀さを目の当たりにした母親はジョジーの願いを聞き入れ、クララをその場で購入する。
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An Essay on Klara and the Sun -3
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