SHORT ESSAYS
An Essay on Klara and the Sun |
カズオ・イシグロの
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これは、2025年2月14日に東洋学園大学「ことばを考える会」より出版された、シリーズ『ことばのスペクトル システムと多様性』(鼎書房)所収の一編をウェブ版として公開するものです。
カズオ・イシグロの「クララとお日さま」が問いかけるもの 北田敬子
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6. クララを取り巻く人々 いわば「太陽ミステリー」とでもいうべき構想をこの作品の一つの軸とすると、もう一つの軸にはクララを取り巻く人々の思惑の絡まり合いがある。クリシーとジョジー母娘に、ヘレンとリックという母・息子が対置されている。幼い頃には屈託なく睦みあっていたジョジーとリックを次第に疎遠にしていくのは、「向上処置」の有無である。クララが母娘に購入されたのは、折あたかも大学進学を視界に入れてジョジーがこれからの人生を構築していく準備期間に当たっていた。大学進学は「向上処置」を受けた富裕層の子どもたちに限られ、彼らは時折仲間内で「交流会」なるものを催す。そこにジョジーが幼馴染のリックを呼んだために会は大荒れとなり、部外者リックが侮辱されるばかりか、クララは粗野な男子連中に「モノ」として乱暴に扱われそうになる。ジョジーは介入せず(むしろB3モデルを選ばなかったことを悔やむかのような発言さえして)、いわばハラスメント実行直前に、のけ者のリックがクララを救う。あたかも「未処置」であることが人間性保持の要であると言えそうな場面である。 大人たちにはまた別の思惑がある。クリシーは時折ジェシーを街に連れて行き、カパルディなる人物に「肖像画」を描かせている。だが、実際にはそれは平面上の絵画ではなく、ジョジーの3Dモデルの創作作業であった。しかも、最終的にはそのオブジェにAI技術を駆使してヒューマノイドを作成し、ジョジーを「再現」するというプロジェクトであることが明らかになって来る。クララがそのロボットにジョジーについて学習したすべてを注ぎ込み、遂には体躯の部分を交換してクララをジョジーに成り代わらせるという「ジョジーを継続する」計画まで密かに進行していた。 この計画には離婚したクリシーの夫ポールが介入してきて異を唱える。そのような「身代わり」作製をクリシーが発想したのは、長女のサリーを「向上処理」のあとで亡くした悲嘆を、再びジェシーで繰り返したくないがためである。クララは制作途上のジョジー型のAIが宙づりになっている現場を目にし、ジョジーを徹底的に学ぶことを依頼される。 さらに、ヘレンは「向上処置」を受けていない子供が救済される途を、アトラス・ブルッキングスカレッジへの例外的な入学許可という方便に求めて、才能豊かだと信じる息子リックに有力者との面談の場を設ける。その人物は過去にヘレンが不実の限りを尽くしたバンスという男だったために、面談は修羅場を呈する。クララはその場面にも立ち会うことになる。
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An Essay on Klara and the Sun -6
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